到達目標と研修方法

A.歯科医師としての基本的価値観(プロフェッショナリズム)

到達目標
1 社会的使命と公衆衛生への寄与
社会的使命を自覚し、説明責任を果たしつつ、社会の変遷に配慮した公正な医療の提供及び公衆衛生の向上に努める。
2 利他的な態度

患者の苦痛や不安の軽減と福利の向上を最優先するとともにQOLに配慮し、患者の価値観や自己決定権を尊重する。

3 人間性の尊重

患者や家族の多様な価値観、感情、知識に配慮し、尊敬の念と思いやりの心を持って接する。

4 自らを高める姿勢

自らの言動及び医療の内容を省察し、常に資質・能力の向上に努める。

B.資質・能力

到達目標
1 医学・医療における倫理性

診療、研究、教育に関する倫理的な問題を認識し、適切に行動する。

人間の尊厳を守り、生命の不可侵性を尊重する。
患者のプライバシーに配慮し、守秘義務を果たす。
倫理的ジレンマを認識し、相互尊重に基づき対応する。
利益相反を認識し、管理方針に準拠して対応する。
診療、研究、教育の透明性を確保し、不正行為の防止に努める。
8 科学的探究

医学及び医療における科学的アプローチを理解し、学術活動を通じて、医学及び医療の発展に寄与する。

医療上の疑問点に対する能力を身につける。
科学的研究方法を理解し、活用する。
臨床研究や治験の意義を理解する。
9 生涯にわたって共に学ぶ姿勢

医療の質の向上のために省察し、他の歯科医師・医療者と共に研鑽しながら、後進の育成にも携わり、生涯にわたって自律的に学び続ける。

急速に変化・発展する医学知識・技術の吸収に努める。
同僚、後輩、歯科医師以外の医療職と互いに教え、学びあう。
国内外の政策や医学及び医療の最新動向(薬剤耐性菌等を含む)を把握する。
【研修方法】

プログラムA、B、共通研修、保健所研修のそれぞれにおいて、研修歯科医自身の自己省察や各施設(指導担当部署)が定める方法(診療後に行う口頭での注意説明、観察記録など)で形成的評価を行うことによって目標に到達することを目指す。
8③については各種セミナーや勉強会、学会への参加など
9③については研修施設内での説明会や連絡
を通じて具体的な研修を行う。
また、プログラムBの研修歯科医に対しては協力型(Ⅰ)臨床研修施設出向後約1ヶ月を目処に研修進捗状況、体調、メンタルに関して自己申告する調査を行う。同時期にプログラムAにも同様の調査を行う。
(プログラムを問わず指導を担当するすべての指導歯科医に対しても同様の評価を依頼する。)
協力型(Ⅰ)臨床研修施設で研修を行うプログラムBの研修歯科医には、プログラムB責任者より研修進捗状況や困っている点の確認などを行う定期連絡メールを送信する。
これらの調査、連絡に対して研修歯科医が期限までに回答することを上記B. 資質・能力の9に含める。

B.資質・能力

到達目標
2 歯科医療の質と安全の管理

患者にとって良質かつ安全な医療を提供し、医療従事者の安全性にも配慮する。

医療の質と患者安全の重要性を理解し、それらの評価・改善に努める。
日常業務の一環として報告・連絡・相談を実践する。
医療事故等の予防と事後の対応を行う。
歯科診療の特性を踏まえた院内感染対策について理解し、実践する。
医療従事者の健康管理(予防接種や針刺し事故への対応を含む)を理解し、自らの健康管理に努める。
3 医学知識と問題対応能力

最新の医学及び医療に関する知識を獲得し、自らが直面する診療上の問題について、科学的根拠に経験を加味して解決を図る。

頻度の高い疾患について、適切な臨床推論のプロセスを経て、鑑別診断と初期対応を行う。
患者情報を収集し、最新の医学的知見に基づいて、患者の意向や生活の質に配慮した臨床決断を行う。
保健・医療・福祉の各側面に配慮した診療計画を立案し、実行する。
高度な専門医療を要する場合には適切に連携する。
4 診療技術と患者ケア

臨床技術を磨き、患者の苦痛や不安、考え・移行に配慮した診療を行う。

患者の健康状態に関する情報を、心理・社会的側面を含めて、効果的かつ安全に収集する。
診察・検査の結果を踏まえ、一口腔単位の診療計画を作成する。
患者の状態やライフステージに合わせた、最適な治療を安全に実施する。
診療内容とその根拠に関する医療記録や文書を、適切かつ遅滞なく作成する。
5 コミュニケーション能力

患者の心理・社会的背景を踏まえて、患者や家族と良好な関係性を築く。

適切な言葉遣い、礼儀正しい態度、身だしなみで患者や家族に接する。
患者や家族にとって必要な情報を整理し、わかりやすい言葉で説明して、患者の主体的な意思決定を支援する。
患者や家族のニーズを身体・心理・社会的側面から把握する。

「B. 資質・能力」のうち、「2. 歯科医療の質と安全の管理」「3. 医学知識と問題対応能力」「4. 診療技能と患者ケア」「5. コミュニケーション能力」に相当する具体的な到達目標を以下(C. 基本的診療能力1 基本的臨床能力等)に示す。

C.基本的診療能力

いずれのプログラムにおいても( )内の数字を目標症例数とする。
症例数は治療途中の診療回数ではなく、当該処置の開始から終了までを担当して一つと数えることを基本とする。
本院のプログラムでは、原則として患者あるいは当該処置の担当医として研修を行うため、下記1.(1)から(4)に記載した症例数は研修期間を通じて研修歯科医が自験する目標数値とする。すなわち、研修期間の目標とする240名あるいはケースの診療の中にこれらの回数を含む。(3)①~⑤および(4)については担当する患者やケースによって回数が異なるが、それぞれの目標数を記す。(3)③~⑤は病棟研修、(4)③④は摂食嚥下リハビリテーション研修においても経験することができる。

到達目標
1 基本的診療能力等
(1) 基本的診察・検査・診断・診療計画(①~⑥を合わせて240、重複を含む)
患者の心理的・社会的背景を考慮した上で、適切に医療面接を実施する。
全身状態を考慮した上で、顎顔面及び口腔内の基本的な診察を実施し、診察所見を解釈する。
診察所見に応じた適切な検査を選択、実施し、検査結果を解釈する。
病歴聴取、診察所見及び検査結果に基づいて歯科疾患の診断を行う。
診断結果に基づき、患者の状況・状態を総合的に考慮した上で、考え得る様々な一口腔単位の診療計画を検討し、立案する。
必要な情報を整理した上で、わかりやすい言葉で十分な説明を行い、患者及び家族の意思決定を確認する。
(2) 基本的臨床技能等
歯科疾患を予防するための口腔衛生指導、基本的な手技を実践する。(200)
一般的な歯科疾患に対応するために必要となる基本的な治療及び管理を実践する。(200)
a 歯の硬組織疾患:レジン充填、インレー修復など(10)
b 歯髄疾患:抜髄、感染根管治療など(5)
c 歯周病:SRPなど(5)
d 口腔外科疾患:抜歯、消炎処置など(5)
e 歯質と歯の欠損:Cr、Brによる歯冠修復など(10)
f 口腔機能の発達不全、口腔機能の低下:義歯による補綴治療など(15)
基本的な応急処置を実践する。(5)
歯科診療を安全に行うために必要なバイタルサインを観察し、全身状態を評価する。(100)
診療に関する記録や文書(診療録、処方箋、歯科技工指示書等)を作成する。(200)
医療事故の予防に関する基本的な対策について理解し、実践する。(200)
(3) 患者管理
歯科治療上問題となる全身的な疾患、服用薬剤等について説明する。(20)
患者の医療情報等について、必要に応じて主治の医師等と診療情報を共有する。(10)
全身状態に配慮が必要な患者に対し、歯科治療中にバイタルサインのモニタリングを行う。(5)
歯科診療時の主な併発症への基本的な対応法を実践する。
入院患者に対し、患者の状態に応じた基本的な術前・術後管理及び療養上の管理を実践する。(1)
(4) 患者の状態に応じた歯科医療の提供
妊娠期、乳幼児期、学齢期、成人期、高齢期の患者に対し、各ライフステージに応じた歯科疾患の基本的な予防管理、口腔機能管理について理解し、実践する。
各ライフステージ及び全身状態に応じた歯科医療を実践する。
在宅療養患者に対する訪問歯科診療を経験する。(1)
障害を有する患者への対応を実践する。(1)
【研修方法】

プログラムA、B、共通研修のそれぞれにおいて、研修歯科医自身の自己省察や各施設(指導担当部署)が定める方法(診療後に行う口頭での注意説明、観察記録、ポートフォリオ、研修歯科医評価シート-1など)で形成的評価を行うことによって目標に到達することを目指す。
プログラムBでは研修を行う歯科系専門診療科においてC1(2)②a~fの該当項目に関する高度な研修を行う。
C1(3)⑤については共通研修の病棟・全身管理研修
C1(4)③については共通研修の摂食嚥下リハビリテーション研修
C1(4)④については特に歯科系専門診療科で小児歯科・障がい者歯科を選択した場合や協力型(Ⅰ)臨床研修施設で対応している場合
においてさらに多くの症例を経験することができる。

B.資質・能力

到達目標
6 チーム医療の実践

医療従事者をはじめ、患者や家族に関わるすべての人々の役割を理解し、連携を図る。

歯科医療の提供にあたり、歯科衛生士、歯科技工士の役割を理解し、連携を図る。
多職種が連携し、チーム医療を提供するにあたり、医療を提供する組織やチームの目的、チームの各構成員の役割を理解する。
医療チームにおいて各構成員と情報を共有し、連携を図る。
7 社会における歯科医療の実践

医療の持つ社会的側面の重要性を踏まえ、各種医療制度・システムを理解し、地域社会に貢献する。

健康保険を含む保健医療に関する法規・制度の目的と仕組みを理解する。
地域の健康問題やニーズ把握など、公衆衛生活動を理解する。
予防医療・保健・健康増進に努める。
地域包括ケアシステムを理解し、その推進に貢献する。
災害や感染症パンデミックなどの非日常的な医療需要について理解する。

「B. 資質・能力」「6. チーム医療の実践」「7. 社会における歯科医療の実践」に相当する具体的な到達目標を以下(C. 基本的診療能力2 歯科医療に関連する連携と制度の理解等)に示す。

C.基本的診療能力

到達目標
2 歯科医療に関連する連携と制度の理解等
(1) 歯科専門職間の連携
歯科衛生士の役割を理解し、予防処置や口腔衛生管理等の際に連携を図る。
歯科技工士の役割を理解し、適切に歯科技工指示書を作成するとともに、必要に応じて連携を図る。
多職種によるチーム医療について、その目的、各職種の役割を理解した上で、歯科専門職の役割を理解し、説明する。
(2) 多職種連携、地域医療
地域包括ケアシステムについて理解し、説明する。
地域包括システムにおける歯科医療の役割を説明する。
在宅療養患者や介護施設等の入所者に対する介護関係職種が関わる多職種チームについて、チームの目的を理解し、参加する。
訪問歯科診療の実施にあたり、患者に関わる医療・介護施設関係職種の役割を理解し、連携する。
がん患者等の周術期等口腔機能管理において、その目的及び各専門職の役割を理解した上で、多職種によるチーム医療に参加し、基本的な口腔機能管理を経験する。
歯科専門職が関与する多職種チーム(例えば栄養サポートチーム、摂食嚥下リハビリテーションチーム、口腔ケアチーム等)について、その目的及び各専門職の役割を理解した上で、チーム医療に参加し、関係者と連携する。
入院患者の入退院時における多職種支援について理解し、参加する。
(3) 地域保健
地域の保健・福祉の関係機関、関係職種を理解し、説明する。
保健所等における地域歯科保健活動を理解し、説明する。
保健所等における地域歯科保健活動を経験する。
歯科健診を経験し、地域住民に対する健康教育を経験する。
(4) 歯科医療提供に関連する制度の理解
医療法や歯科医師法をはじめとする医療に関する法規及び関連する制度の目的と仕組みを理解し、説明する。
医療保険制度を理解し、適切な保険診療を実践する。
介護保険制度の目的と仕組みを理解し、説明する。
【研修方法】

プログラムA、B、共通研修のそれぞれにおいて、研修歯科医自身の自己省察や各施設(指導担当部署)が定める方法(診療後に行う口頭での注意説明、観察記録、ポートフォリオ、研修歯科医評価シート-2など)で形成的評価を行うことによって目標に到達することを目指す。
B7②~⑤、C2(2)①②、C2(3)①②、C2(4)③(★印:各種医療制度、地域包括ケアシステム等の理解)については研修オリエンテーション時に講義を行うが、C(2)①②、(3)①~④についてはプログラムAで保健所研修を希望することにより、さらに具体的な研修を行うことができる。
C2(2)③④⑦については共通研修の摂食嚥下リハビリテーション研修
C2(2)⑥⑦⑧については共通研修の医療連携口腔管理研修
C2(2)⑦⑧については共通研修の病棟・全身管理研修
において具体的な研修を行う。