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高感度PCR法によるウイルス検出

HIV除去精子を用いた生殖補助医療の実施においては、挙児希望の女性やその出生児がそれによってHIV感染を起さないことが極めて重要です。そこで、HIV除去の処理をした精子の中にウイルスがいないこと、さらに、受精後の胚の培養液の中にもウイルスがいないことを、非常に検出感度の高い検査法を用いて確認しています。
この方法について簡単に説明します。

まず、検体となるHIV除去精子液あるいは胚培養液を毎分18,000回転の高速遠心にかけて予想されるウイルスを沈殿させます。上清を除いたあと、この沈殿から核酸抽出キット(QIAamp UltraSens Virus Kit)を用いて核酸(RNAとDNA)を精製します。そして、この核酸の中にHIV-1のRNAあるいはDNAが存在するかどうかをRT-nested PCRによって検査します。
RT-nested PCRとは、逆転写酵素によりRNAから相補的DNAを合成し、入れ子のようになった2対のプライマーのうち、まず外側のプライマー対でPCRを行ったあと、その増幅産物の一部を用いて内側のプライマー対で2回目のPCRを行うものです。このPCR法により目的の塩基配列をもつRNAとDNAを非常に高感度で検出することができます。HIV-1はそのウイルス学的性質から、RNAを検査することによりウイルス粒子そのものを、DNAを検査することによりウイルスに感染したリンパ球の存在を調べることができます。
私たちの行った予備実験の結果では、1分子のHIV-1のRNAあるいはDNAをほぼ100%の確率で検出することができました。一方、HIV除去精子液や胚培養液の検体からのHIV-1のRNAとDNAの回収率は約60%でした。HIV-1はウイルス粒子の中にRNAゲノムを2本もっていますので、私たちの方法は80%以上の確率で検体の中のウイルスの存在を調べることができるということになります。
なお、HIV-1は塩基配列がお互いに少し異なっている数種類のサブタイプに分かれることが知られていますが、私たちが使っているPCRのプライマーは理論上すべてのサブタイプに属するウイルスに対応できるように設計されています。

このように私たちのHIV検査法は非常に検出感度の高いものですが、その分、検出系への外部からのHIVのRNAあるいはDNAのコンタミネーション(混入)による偽陽性出現のリスクも高くなっています。この問題に対処するため、検査担当者の技術向上や検査野の清浄に努めることはもちろんですが、必要試薬をあらかじめ分注して検査ごとに使い捨てにするような工夫も行っています。

さきに述べましたように、ここで用いているHIV検査法は1個のウイルスを確実に検出できるとは言えませんが、2個ならまず間違いなく検出できると思われます。一方、性的接触によるHIV感染が起こるには平均約10万個のウイルスが必要との試算があります。これが正しければ、精子液や胚培養液の検体の中にウイルス核酸が検出されなかったときの感染リスクは10万分の1以下ということになります。
ここでは感染リスクの確率を敢えて見積もってみましたが、本法による生殖補助医療の感染の危険性は限りなく0%に近いものと言うことができます。しかし、これはあくまでも検査を正しく行うことが前提です。私たち検査の担当者は毎回気持ちを新たにし、この生殖補助医療の安全性確保のため、常に緊張感を保ちながらウイルス検査に取り組んでいます。

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