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はじめに

長い間、医療者はHIV感染者の挙児希望に関して否定的な態度をとってきました。二次感染の危険性や予後に不安が強かったからです。しかし1996年にプロテアーゼ阻害剤(PI)を含む多剤併用療法が導入されて以来、HIV/AIDSはコントロール可能な慢性感染症になりつつあります。そのため、結婚して子供が欲しいと普通に願うHIV感染者が増えています。ただ、これまで子どもを作りたいと医師に相談をしても二次感染防止のためにコンドームの使用を言われ、断念することを勧められるだけでした。あきらめきれずに子供を作ろうとして妻が感染した例もあります。それだけでなく、抗HIV剤の催奇形性の問題も解決されてはいませんし、HIVに感染した乳幼児の予後は未だに不良です。

しかしHIV感染者の生殖補助医療は確実に進歩しており、今回、私たちはHIV感染者の精液からHIVを完全に除去し、体外受精を利用して母も子も感染させずに安全に妊娠できる方法を開発しました。ここではそれについてご紹介いたします。

人工授精や体外受精の安全性は施設によって異なりますので、方法としてウイルス除去が不十分な場合、技術として不慣れな場合は、危険性がのこりますので注意すべきです。説明をよく読んで、不十分な技術による二次感染の危険性をよく理解してください。

1.精液の中のHIV(下図参照)

ご存知のように精液にはHIVが混じっています。一口にHIVと言っても、自由に漂っているHIV(RNA)、精子に付着したHIV(RNA)、ウイルスを産生している単核球(proviral DNA)など、いろいろあります。感染力が最も強いのは感染細胞から作られるHIV (RNA)です。

Quinnらは血液中のウイルス量(viral loadと言います。VLと略記されます)が多いほど性交渉による二次感染の確率は高くなり、VLが400以下では二次感染が少ないと報告していますが、調査人数が少なくVLをどれだけ下げると大丈夫かは不明です。私たちの検討でも確かに血中VLと精液中VLには相関が認められ、抗HIV療法で血中VLが少なくなると精液中VLも少なくなって、性行為による二次感染率は低くなると思われます。しかし、正確な調査の実施は倫理的にできませんし、VLが検出限界以下なら感染は生じないと考えるのはとても危険なことと言えましょう。

2.セックスでの二次感染の危険性

一度の性行為による感染確率は、WHOによれば、0.1~1.0%と言われています。確率に10倍も幅があるのは、双方の身体状況や接触方法によって感染確率が異なるからです。一般的にHIV/AIDSが進行している場合は5/1000、安定している場合は0.7/1000前後となります。感染者の血中ウイルス量が多ければ確率は上がりますし、クラミジア感染症などの性感染症に罹患していると確率は4倍程度、はね上がるとの報告もあります。肛門性交の受身側は0.1~3.0%、経口で暴露した場合も歯周病、口腔内粘膜損傷や性病罹患によって感染危険性が高まることもあり、安心できません。

なお、HIV感染者の夫が、妻の妊娠を願って、排卵日だけコンドームを使用しない場合では、毎年約4.8%ずつの妻が感染していくと推測されます。1%の感染確率として毎週1回の危険性ある性行為を行えば感染確率は1年間で41%となります。

3.人工授精での二次感染の危険性

HIV陽性者の精液を何も処理をしないで用いた人工授精では約3.5%が二次感染しました。それに対して、イタリアのSempriniらは、Swim up法により精子を処理して2000回以上人工授精を行い、二次感染がないと報告しています。ただし、Sempriniらの方法は回収精子でHIV RNA(800copies/ml(つまり、799以下のウイルスがあってもわからない))でしか確認しておらず、ウイルス除去が本当に確実に行われているのか疑問がもたれてきました。

表1.HIV感染男性がHIV陰性女性と子どもを持つ場合の女性の二次感染確率

性交渉 毎年約4.8%ずつ感染
血中HIV量が多いほど感染確率が高くなる。治療によってウイルスが少なくなると1回の感染確率は低くなるが、薬剤の副作用によって精子の数や機能が傷害されると1回の妊娠率が低くなり妊娠までの危険性は増す
Semprini等の人工授精 1/2000以下だが0ではない
改良法による体外受精 理論上は100%安全

Swim up法も研究者によって方法が異なり、結果としてウイルス除去率も異なります。

私たちやフランスのグループなどは精液中のHIVを検出限界以下(50copies/ml)にできましたが、施設によっては部分的にしか検出限界以下(100copies/ml)にできない例もありました。その原因は、従来の不妊症で行われている方法を用いたためと思われ、はっきりとウイルス除去を目的とした方法を使わなければいけないことが、判明しています。私たちは改良Swim up法によって回収精子にHIVが1\copyもないことを確認しました。

4.HIV除去方法について

図1 精液中の存在形式

1.精液希釈と夾雑物除去

精液には前立腺由来のムチン*1やシュウ酸結晶*2の他に、尿道通過時の雑菌や下着の繊維などが混入しています(前述図1参照)。そのまま遠心分離機にかけると夾雑物(ゴミ)と一緒にHIVを巻き込む危険性があります。

私たちは遠心前に精液を希釈し、静置してゴミを沈殿させた後に上層の精子浮遊液を回収し、フィルター濾過して遠心分離します。(図2参照)

*1
ムチンとは気管、胃腸などの消化管、生殖腺などの内腔を覆う粘液の主要な糖タンパク質
*2
シュウ酸結晶は尿の中に含まれているミネラル
2.HIV分離液と濃度設定の選択

図2 精液からHIV除去を目的とした方法の開発

HIV分離液は1層より2層より4層と層を増やせば、増やすほどウイルス除去率は高まりますが、精子の回収率が悪くなってしまいます。そこで私たちは98%パコールを用いた「連続密度勾配」法を開発して、ウイルス除去率を1/106以下に高める同時に精子回収率も向上させることに成功しました。

3.遠心分離後の精子分画の回収法

遠心分離後、HIVは上層に分布し、単核球は中間層に分布し、健康な精子は底に沈んでいるわれですが、一番底の洗浄精子をどのように回収するかも問題です。つまり上から順に吸引して精子を回収すると管壁を伝わりHIVが混入する危険性があるのです。私たちは共同研究者の兼子先生が開発した特殊試験管を用いて上層成分を完全に遮断して底の精子を回収しています(図2)。

4.改良Swim up法

図3 Swim up法の相違

従来のSwim up法は精子の含まれる液(精子浮遊液)に精子だけが上がる性質を持つ液(培養液)を上部において(重層して)泳いで上ってくる精子を回収します。ただ、この方法では遠心後の精子を培養液で洗浄し、そこに培養液を重層すると比重差がなくなって、ウイルスが混じってしまう危険があります。私たちは98%パコール液の最下層の精子浮遊液(とても濃い液体)を底に静置し、上に薄い培養液を重層させて、泳いで上る精子を回収しています(図3)。

5.手技に関連する事項について

1.精子や卵へのHIVの感染と付着の可能性

HIVが精子や卵に感染するか否かも議論があります。精子表面に付着したHIVの定量報告はなく、Swim up法で回収した精子表面に、万々が一にもHIVが付着していないかが重大な問題でした。しかし、精子や卵は未分化細胞で、CD4などは未だ持っていません。卵は妊娠10週以後リンパ組織が分化してCD4蛋白が発現します。ということは体外受精の培養液に仮にウイルスが混入しても、卵細胞にウイルスが感染することはないと考えられます。

実際、受精卵や胎児に精液中のHIVが直接感染するとすれば、母に感染しないで胎児のみに感染する可能性がありますが、そのような報告は、これまで何千万人もの感染者の中で一件もなく、精子にHIVが付着して卵に感染する可能性はないと思われます。

参考:
培養液中でのHIVの感染力
HIVは毎日100億個産生されますが、感染力を持っているウイルスは全体の一万分の1以下と考えられます。さらに、HIVを培養液の中で培養すると、感染力は1日毎に1/10以下に低下することが、共同研究者である慶應の加藤先生たちの研究で判明しています。
2.体外受精と人工授精

人工授精は採取した精液を子宮内に注入して受精を狙うやり方で、体外受精は成熟した卵を母体から採取して、体の外で精液によって受精させるやり方です。体外受精は人工授精に比して二次感染防止の面では数段優れています。つまり、人工授精でHIVが混入した精子を子宮に注入した場合、子宮内の細胞に感染する危険性があります。体外受精で卵を取り出して精子と培養する時にHIVが万一にも混入していたとしても卵には感染せず、HIVの感染性は二日目には100分の1以下に低下します。さらに培養液を2日目に交換し、受精卵を洗浄すると、たとえ精子液にHIVが混入していても相当減少できます。

我々は胚移植前に培養液中のHIVが全くないことを超高感度PCR*3で確認しています。しかし、体外受精は排卵誘発剤による過卵巣剰刺激症候群*4など女性への負担が大きいのが欠点です。

*3
PCRは開発会社のロッシュ社の検査の名称。
血漿中のHIV RNA量を測る検査で、
  • 病気の進行予測:多いほど早い
  • 治療開始の時期の判断
  • 耐性発生など治療変更の判断
  • 抗HIV薬の効果判定
  • 急性HIV感染症の診断
などの指標になります。50copy以下なら増殖は抑えられていると判断されています。但し、その手法上、ウイルスを何十万倍にも増幅させる検査なので誤差も大きく、2~3倍程度の差は誤差の可能性があります。ウイルスの有無をみる目的であれば、誤差に関わらずウイルスが見つかれば、感染成立していることになりますが、経過をみる上では複数回の検査で進行度合いを判断する必要があります。ここでは一般的に使用されているPCR検査よりはるかに検出感度の高い検査(1つのウイルスを検出できる)を使用しています。
*4
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)はGnRHa+hMGによるIVF-ET周期の約6%に入院を必要とする症例が発症すると言われ、また一般のhMG+hCG療法においては約16%程度発症するといわれています。このOHSSは卵巣腫大をもたらすだけでなく、腹水貯留を引き起こし、その結果として血液濃縮が引き起こされ、この血液濃縮により腎不全や血栓症など生命予後にかかわる重大な合併症に進展することがあります。
3.HIV感染者の精子

HIV感染者の多くは、精子の数が減少し、奇形率も高く、運動率も低下しています。

Percoll法とSwim up法を組み合わせた場合、そうでなくても精子の回収率は低下しますから、HIV感染者では回収可能な精子は極めて少なくなります。そのために人工授精で妊娠する可能性が低いと思われました。二次感染の予防と受精率の向上、この二つを考えて、体外受精を採用したのです。なお、精子の異常がHIV感染によるのか、抗HIV剤の副作用によるのかは不明で今後検討していきたいと考えています。

4.顕微授精(ICSI)について

運動性の良い精子を1匹回収して卵細胞に注入する顕微授精(ICSI)の方法によっても二次感染無く、妊娠出産できています。精子の状態の悪い方にはこうした方法を適用することで、卵子に受精させることができます。

5.体外受精のプロトコール

実施予定の二週間前から実施施設において卵子採取のためのホルモン注射を行います。この期間病院に毎日通院することが必要となります。自宅から遠い場合は、宿泊も必要になります。地元の受け入れ医療機関の全面的な協力が得られれば、最初の一週間程度を受け入れ施設で注射できた例もあります。

採卵し、事前に洗浄し検査済の精子を使って体外受精を行います。採卵後に再度ウイルスが検出されないことを確認して、胚移植をおこないます。胚移植までは2~3日滞在ということになります。

実施後は選定した受け入れ医療機関で妊娠継続をする。

6.実施手続き

1.体外受精への参加条件について
  1. 感染経路・セクシャリティは問いません(一部に製剤経由の方のみではという誤解もあるようです)が、陽性男性、陰性女性に限定されます。

    超高感度PCR検査でウイルスの有無を確認する過程でプライマーという物を使用します。このプライマーはウイルスのサブタイプによって異なる関係上、感染経路について個別にお尋ねする場合がありますので、ご了承ください。

  2. 法定婚であること(現時点では研究事業の一部なので、原則として、別な倫理問題が派生しそうな関係は今回は除外しています→但し常識の範囲で実施される時点で婚姻関係が当然、成立すると予想される場合-結婚式が来月予定など-は、来院し、相談に応じることは可能)。
  3. 夫婦双方の自発的な希望が、皆さんの時点で確認されていること(家の都合などの不本意な同意でないことを一応は確認してください)
  4. その他、常識的な判断で、挙児希望に関して支障のある状況がないこと。
2.参加へのステップ
  1. 上記事項の確認
  2. 必須ではありませんが、主治医に紹介状を作成してもらう。服薬の有無や検査値等が分かれば、参考になります。もし女性の婦人科的な問題もチェックしてあれば、添付してください。なお女性のマイナスを最後に確認した時期も分かれば教えてください。
  3. 遠方の場合はクライアントさんの都合も訊いてから、荻窪病院の花房医師か、小島カウンセラーに連絡を取り、当院の血液科に予約を入れる。TEL03-3399-1101
  4. できれば夫婦で当院に来院してもらう。説明を聞くだけなら一人でかまいませんが、二人の意思確認が終わらないと次に進めません。
  5. 当院では手技の説明を行う他、医師、カウンセラーや外来ナースが個別に意思確認を行います。
  6. 説明を聞いて挙児希望が変わらない場合、直ちに妻の基礎体温の測定を開始すると同時にその旨を荻窪病院スタッフに伝え、実施施設決定とその施設への往訪日を調整してもらう
  7. 精子の検査を実施施設(運動性と数の確認のみなら荻窪病院で行えます)で行います。

    感染、C型肝炎治療や抗HIV薬の影響で健常な精子数がきわめて少なかったり、運動性が悪かったり、場合によっては無精子症のこともあります。少ない場合、複数回の採取・洗浄・精子凍結を行うことも考えられます。

  8. その結果が良好であれば、実施病院との話で開始時期を決定します。
  9. 実際の体外受精実施の二週間前から実施施設において卵子採取のためのホルモン注射を行います。この期間病院に毎日通院することが必要となります。
  10. そして実施。実施後はなるべく地元の医療機関で妊娠継続をしてもらうのが理想です。

    非感染の確認ために時々の採血協力をしていただきます。

7.参考事項

1.夫陰性、妻陽性で挙児希望がある場合

当研究班では行っていませんが、国立国際医療センター、エイズ治療開発センターにて相談を受け付けておりますので、ご相談ください。

2.夫婦共にHIV陽性である場合

夫婦が共にHIVに感染し、子どもを望む場合、夫婦感染でも夫婦それぞれが感染しているHIVが同じとは限りません。異なるとすれば、重複感染が起きる危険性があります。重複感染すると飲んでいない薬に薬剤耐性になってしまうことが予想されます。ただ、残念ながら現在、夫の精液を洗浄することについては当研究班の対象の枠を外れていますので、参加できません。今後の議論を必要とします。

3.C型肝炎の問題

非加熱製剤を使用した血友病患者の90%以上がC型肝炎に感染し、HIV/HCV感染者の死因の一位はC型肝炎の悪化となっています。C型肝炎の治療としてIFN+ribavirin併用療法*5が有効で、早期治療が勧告されています。しかし、リバビリンは精子の奇形を高率にもたらし、治療中と治療終了後半年は避妊が必要です。C型肝炎の治療を優先させるか、子供を優先させるかは主治医とよく相談し、場合によっては精子の冷凍保存の必要があります。Swim up法で精液中のHCVも除去される一方、体外受精でHCVが二次感染した報告もあり、不妊治療の中でのウイルス感染対策のガイドライン作成を求められています。

*5
IFN+ribavirin併用療法とは現在、C型肝炎の治療として行われている治療で、注射薬のIFN(インターフェロン)と飲み薬のribavirin(リバビリン)を併用する治療法で、催奇形性(奇形を促す要因)があるとされ、男性・女性共に使用禁忌となっています。

8.FAQ よくある質問

Q

説明は読みましたが、どのような「やり方」でウイルス除去するのですか?もっと分かりやすく教えてください。

A

精液の中には精子、ウイルス、細胞片やゴミなど様々なものが含まれています。

  1. 精液を少し薄めたら、特殊フィルターに通して大きなゴミや細胞片などを取り除きます(A液)
  2. だんだん濃くなるパコール液を作り、A液を上に乗せ、遠心分離機に入れます(パコール法)。
  3. すると軽いゴミ、不完全な精子、ウイルスなどは底まで行かず、途中に浮きます。底にある液体だけを回収します(B液)。B液の上に精子だけが登る性質を持つ液体をそっと乗せます。
  4. 上がってきた精子だけを回収します(スイムアップ法)

不明な点は遠慮なく、医師にお尋ねください。

Q

本当に安全なのですか?

A

パコール法とスイムアップ法を組み合わせて洗浄し、それを独自の超々高感度検査を使ってウイルスがいないことを確認しています。ウイルス残存の危険性は100万~1億分の1以下の確率で、現在、考えられる限りの安全策がとられていると言えます。検査の感度がさらに良くなれば、この方法の安全性もさらに確認されるものと期待しています。

Q

地元病院でもやってもらえるのでしょうか?

A

どこでもやってくれるというわけではありません。かなり専門的な知識と高度な技術が要求されますので、現在は厚生労働省の研究班として一部施設で試行されているところです。参加実施施設は増減がありますので、まずは「荻窪病院血液科」にて相談を受け付けていますので、ご相談ください。

Q

最初の相談にかかる費用と荻窪病院への行き方・受診の仕方を教えてください

A

荻窪病院での費用は初診料程度(紹介状の有無によって異なり、あればなし)。診察代については若干(1,000円以内)かかり、検査をすれば、そのコスト程度です。ということで、紹介状がなくて、相談だけなら2,000円程度、紹介状があれば、1,000円以内です。なお、血友病で健康保険、特定疾病と先天性血液凝固因子等受給者証を利用しての受診も可能ではありますが、利用先医療機関と自治体との契約が発生しますので、直ぐにコストフリーというわけには行かないでしょう。

荻窪病院へのご案内は、東京駅からですとJR中央線(快速が便利、総武線・丸の内線でも良いが時間はかかる。なお、中央線特別快速は止まりません)で、高尾方面に乗り、荻窪駅下車。

西武バス「14石神井公園駅行き」(「11石神井公園駅行き」は駄目)か「15長久保行き」で、6~7分210円で荻窪病院前下車。タクシーだと1,000円前後となります。

一番の窓口で血液科のカルテを作ってもらって、小児科の前で待っていてください。なお、小児科外来看護婦さんにも花房先生と予約ですと声をかけてください。

Q

実施には費用が、どれくらいかかりますか?

A

精子検査・精子洗浄は研究費で行われるために無償ですが、慶応病院では実施のための精子凍結・管理費用として初回10万円がかかります。また他の部分は通常の不妊治療で行われる医療と変わりませんので、自費診療となります。自費は、施設によって幅があり、20万円~75万円程度となります。なお遠方の実施施設の場合は旅費と二週間の滞在費も必要となります。詳細はご質問ください。

Q

妊娠率は、成功例はどれくらいですか?

A

女性の年齢や体調によって異なります。通常の人工授精の比率はトップレベルの病院でも1回の治療あたりの妊娠率は40%前後、出産までいくのは25から30%程度です。全国平均では妊娠率は15~20%程度しかありません。しかし、今回の場合は女性側に不妊要因がなければ、妊娠率はもっと高い(倍以上と想定されます)とも考えられています。成功例についてはプライバシーの問題がありますし、詳しくは言えませんが、20名以上のお子さんが誕生しています。もちろん母子共に感染例は0です。

Q

順番があると思いますが、実施までの期間どれくらいでしょうか?

A

順調にいった場合、数ヶ月で実施できると考えています。しかし、実際には夫の都合、妻の身体的なリズム、仕事の都合や周囲への言い訳のしやすさなどで実施までの時間が決まることが多いので、一概には言えません。

Q

夫の都合って何でしょう。具体的に教えてください。

A

HIV感染が起きると健康な精子の数が減るとも言われています。また抗HIV薬の服用によってもさらに減るとも考えられています。また緊張下の精液採取はやはり精子数が減りやすいものです。つまり「一度、精液採取すれば終わり」ではないこともあり、足りない場合は、何度か通院しなくてはならなくなります。仕事が休みにくい人は大変です。 また服用中の薬の一部に精子に影響する薬物があり、そうした疾患の治療状態も考慮しなければならないことがあります(例.C肝炎治療薬リバビリンなど)。

Q

妻の都合とは何でしょうか?

A

夫同様、仕事を持っている方は、実施のための時間を作るのが大変です。特に採卵に備えて二週間毎日、実施施設に通院する必要があります。しかも、その二週間をいつにするかは各女性の月経のリズムによって決まりますので、仕事の都合だけでは決まりません。さらに同僚、上司、近所や妻の親などに対しても場合によっては通院についての口実を考えなくてはいけませんので、そのへんも苦労です。

なお、妻の体調が良く、地元に理解ある産婦人科病院があれば、最初の一週間を地元で行うこともできます。

また妊娠後は問題がなければ普通の妊婦さんですから地元の医院で診てもらうことも可能です。ただ、可能であれば体外受精を行った事情などは知っていただいた方が理想的ですが…。

Q

感染の危険の他、妻には危険はないのですか?

A

実際、体外受精に関わる体への負担については、女性の方にあると思われます。排卵誘発に関連する注射も痛みを伴いますし、排卵誘発に先立って点鼻薬(GnRHアゴニスト)を使用する場合には更年期様症状が出てくることもあります。また、もっとも大きな問題は卵巣過剰刺激症候群(OHSS)と呼ばれる症状で、これが生じると腹水がたまる等、専門医による慎重な対応が必要になります(このへんは実施施設の専門医が診てくれます)。

また卵子の採取のことを採卵(oocyte pick up:OPU)と呼びますが、この際にはたいていの病院で麻酔を用います。麻酔については局所麻酔で十分ですが、痛みに弱い方や病院によっては静脈麻酔(ラボナールなど)を用います。昔は全身麻酔で何日も入院させる病院も会ったようですが、現在は日帰りで採卵できますので、その程度の痛みとお考えください。

Q

荻窪病院に相談に行くとき、事前に紹介状に記載して欲しいことや済ませておく検査はありますか?

A

いろいろな事情で紹介状がいただけなくても、当方で検査できるのであれば、行いますので結構です。ただ、その分の費用はかかってしまいますので、ご用意ください。

紹介状では現在の免疫の状態、服薬の有無・内容、C型肝炎の治療歴や他の検査値等が分かれば、参考になります。もし女性の婦人科的な問題もチェックしてあれば、添付してください。なお女性のマイナスを最後に確認した時期も分かれば教えてください。

なお、参考ですが、新潟大学医歯学総合病院の場合は事前検査としては

感染症:
HIV抗体、HBs抗原、STS、TPHA、HCV抗体、クラミジアIgG. IgA
基礎ホルモン:
月経3~5日目にTSH、LH、FSH、プロラクチン、フリ-T4、抗核抗体

卵管の造営検査などを事前に御願いする場合もありますとのことです。

Q

各実施施設とその違い?

A

新潟大学医歯学総合病院、慶応義塾大学病院の2箇所です。

費用では新潟大学医歯学総合病院は20~25万円程度、慶応義塾大学病院は「75万円から」というあたりです。技術的な相違があるわけでもありません。

新潟大学医歯学総合病院も、慶応義塾大学病院も体外受精と顕微授精の両方を適宜使い分けています。距離と費用と手技の問題で迷われるかと思いますが、ご相談ください。

なお、体外受精と顕微受精での催奇形性の発生については差がないとする説と顕微受精の方が催奇形性の率が2~3倍高いという説があるようです。もっとも2~3倍高いといっても1-2/1000程度のものです。

Q

これまでの実績は?

A

2010年12月末現在

出産数 80例

1人 66例

双子 13例

三つ子 1例

出生したお子さんは計95名となります。

最後に

イタリア、フランス、スペイン、イギリスなどでは、HIV感染者の人工授精を積極的に行うようになりつつありますが、アメリカCDCは未だに禁止勧告を解除していません。我が国ではHIV感染者の人工授精の実施は倫理委員会の承認を得るように産婦人科学会が2003年1月に勧告を出しました。子どもをあきらめるか、自然な妊娠、ウイルス除去が不十分な人工授精、改良法による人工授精や体外受精、(表参照:スペースがなければ削除)どれを選択するかは医療従事者と患者夫婦が十分に相談すべきと思います。個々の精子の状態によって、人工授精、体外受精、顕微受精などの適用は異なりますが、超高感度PCRによるHIVの完全除去の確認がされれば、どの手技を選択してもよいと思います。

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