HOME > 体外受精-胚移植を希望される方へ > 荻窪病院におけるカウンセリング手続きについて

1.荻窪病院へのアクセス

「HIV陽性男性、陰性女性夫婦に対する体外受精-胚移植の臨床応用」への参加については荻窪病院が窓口となっており、希望夫婦は必ず荻窪病院を受診し、当院からの紹介の形で各実施施設を受診しています。荻窪病院へのアクセスに関しては以下のような経路をたどることがほとんどです。

  1. 現在の医療機関からの情報提供を受けて荻窪病院に本人が直接、電話連絡
  2. 現在の医療機関からの情報提供を受けて荻窪病院に医療スタッフが電話(含e-mail)連絡
  3. 講演会、報道、インターネット、患者会等からの情報提供により荻窪病院に本人が直接、電話連絡(含e-mail)
  4. 講演会、報道、インターネット、患者会等からの情報提供により荻窪病院に本人から封書にて問い合わせ

いずれの場合も原則、カウンセラーが対応(不在の場合は血液科外来にて一旦受け付ける)し、医師との調整、精液検査希望の場合は検査室との調整を行った上で来訪日を決定しています。

その際は以下の点についてチェック・説明しています。

  • 本研究班の方法について事前にどこから、どの程度、情報を入手しているか
  • 夫陽性、妻陰性夫婦のみの参加であること(陽性夫婦・夫陰性+妻陽性夫婦に関しては相談のみは可能であること)
  • 国籍、感染経路については参加への制約にならないこと。ただし一部施設は原則日本人の受入れに限定していること
  • 外国籍の方の場合は日本語会話の力
  • 主治医からの紹介状の有無(可能なら受診の際に持参してほしいこと)
  • 精液検査の希望の有無
  • 来院当日の離院時間の制約の有無
  • 希望があるなら基礎体温については極力、早く測定を開始しておくこと
  • 当院訪問は必ずしも実施を前提としなくてもよいこと
  • 当院の初診は十分な説明時間を確保するために午前中の予約時間となること
  • その他、質問の有無

次に期日が決定し、e-mail経由での問い合わせや電話などでアドレスが判明している場合は、以下の内容の「荻窪病院へのご案内」を送付して、来訪の便宜を図っています。

2.事前の説明

1.目的確認

荻窪病院を来訪した夫婦にはまずカウンセラーが会い、来訪の目的を確認します。来訪した夫婦の目的はほぼ3つに分けられます。

  1. 将来展望を見据えた情報収集目的
  2. 挙児への選択肢としての検討材料
  3. 実施・参加を決断する上での最終ステップ

1-Aには、結婚を考えたカップルやその親の来訪、肝炎治療の開始時期を考えた重複感染者などが多くみられます。

1-Bでは不妊治療を受ける中で陽性が判明した夫婦、次子の挙児を計画する夫婦、数年後の挙児を希望する夫婦などがほとんどです。

1-Cは主治医、講演会やインターネットである程度、情報収集を済ませた夫婦、挙児への強い希望を持つ配偶者(多くの場合、妻)が主導的に動いている夫婦が中心となっており、この事例が来訪者の大半です。

2.検査についての確認

次に当日の精液検査の希望の再確認と手配、離院予定時間をにらんだ検査結果通知の方法の確認を行います。上の1-B、1-Cではほとんど精液検査を希望しますが、当日が多忙で午前中しか時間が取れない夫、不妊治療の過程で既に精液検査が終了している例などもあり、事情に応じて、

  1. 当院への再来院での検査か
  2. 実施施設の検査まで持ち越すか

を判断してもらっています。後者の方が手間はありませんが、長期間待った挙句に無精子症の判定となっても辛いので、極力、事前の検査を行うように勧告しています。

さらに精液検査を行っても、結果判明まで待つ時間がない夫婦の場合は、

  1. 再来院して結果告知を受けるか
  2. 遠隔地居住などで郵送やe-mailの通知を希望するか
  3. その他として、本人から連絡を受けて当院に記載してある携帯電話などに通知するか

などを決定します。特に23の場合はプライバシー漏えいの危険がない形を話し合うことが重要となります。

3.他の確認事項

確認事項として「HIV陽性男性、陰性女性夫婦に対する体外受精-胚移植の臨床応用」への参加のための4条件を提示しています。

  1. 法定婚であること
  2. 双方の自発的意思であること
  3. 夫が陽性、妻が陰性であること
  4. 常識の範囲で妊娠・出産・育児の障害となるものがないこと

3-Aについて正確に言えば、実施当日までに入籍していることが条件であり、未入籍のカップルであっても結婚・入籍の予定が明確であれば、相談だけでなく具体的に話を進めることはできます。その場合は入籍時に必ず連絡をもらい、実施の時には確認するようにしています。なお日本国籍の夫婦については原則、証明書は求めておりませんが、どちらかが外国籍、あるいは海外在住の場合は、必要に応じて入籍の事実を明らかにする証明書を求めております。

3-Bは、初診において最も重要な確認事項であり、本研究班が開始時に有識者から最も懸念を表明された点です。つまり、こうした手技が存在することで、社会的・経済的に弱い立場にある既婚女性が妊娠出産を強いられるのではないか、「家」の圧力により強制されるのではないか、女性の権利擁護をどう担保するのかという問題です。これに対しては個別に面接を行うことで対処としております。
なお、この時点では、こうしたルールが存在することを表明して夫婦の反応を確認するに留め、後刻、個別にカウンセリングを行いながら秘密保持を約束して確認しています。

3-Cについては主治医からの紹介状での確認、あるいは当院での検査での確認を行っておりますが、夫の判明直後以降、妻の陰性確認を怠っている例も少なくありません。万一、妻の陽性が判明した場合は、この研究事業への参加は断念することになります。

3-Dの「常識の範囲で妊娠・出産・育児の障害」とは具体的には夫婦ともに無職で就職の見通しもないといった経済的基盤がぜい弱な場合、夫や妻に物質依存傾向等が認められ妊娠・出産に障害が予想される場合、家庭内暴力がある場合などを想定しています。
なお夫の健康状態-CD4-などを基準の一つにすることも検討もされましたが、病気を理由に医療側が一方的に挙児希望を拒否することは、そもそも本研究の理念にも反するために設定されておりません。ただIVFの成績、母体へ負担、子どもの状態を考えると、妻の年齢が42歳を超えての実施は、現実には条件的に厳しくなることはお話しし、ひとつの限界としていることはお伝えします。

4.他手段の提示

最後に必ずしも本研究班に頼らずとも、リスクを低減する手段があることについて提示いたします。

即ち、血中のウイルス量と精液中のウイルス量はある程度、正比例しており、現在、検出限界以下のVLの者は性行為においても、ウイルス量の多い者に比較して感染危険性は低下すると考えられていること。

基礎体温を計測して計画的な性行為を行うことで、さらにリスクを低減させることができること。

また本手技において仮に洗浄が100%成功しても、体外受精に伴う女性へのリスクが存在し、経済的にも、時間的にも身体的にも多大な負担がかかることを説明しております。

もちろん血中ウイルス量が検出限界以下であっても精液中も検出限界以下になる保証はないと言われていること、抗ウイルス治療、肝炎治療やHIV感染が正常精子数を減少させ、性行為を重ねなくてはならず、リスクの増大が予想されることも同時に説明しております。

ここまでの確認を行って、検査等、実施をイメージした説明を続けてよいかの了解を得て、手技についての説明を行っています。

ここでカウンセラーが行う説明は、あくまでも後刻、医師が行う詳細な説明を理解しやすくする目的であり、精液洗浄の方法について大まかなイメージを持ってもらうことを主眼においています。その際、使用している冊子が「「精液からのHIV除去技術」による体外受精を希望するご夫婦へ」です。

3.カウンセリング

説明を聴いた夫婦の感想を求め、話し合いを続けたいかを決定します。継続する場合は、次の3つのステップに進みます。

  1. 希望夫婦の生活状況・社会資源・心情の把握
  2. それに基づいて予想される障害と問題、その対処法の検討
  3. それらを考慮に入れた上での不安・期待・相手への気持などの心理状態を個別に知ること

Aの生活状況において就労状態、健康状態、医療環境の他に、実施おいては各々の父母、兄弟姉妹、家族にどれだけ夫の疾患について話しているかがポイントになります。

広く話している場合は了解・協力が得られることが多く、何よりプライバシー保全の苦労をしなくて済みます。

逆に家族に話していない場合は同居家族の範囲、家族間の連絡状況、連絡の密度などもお尋ねし、二週間の事前通院や入院の口実をどうするかは大きなテーマとなります。

同様に正規職員となっている妻の場合は職場への口実、遠隔地の病院に通う言い訳も問題となります。

なお費用については洗浄部分までについては研究の一環として無料ですが、凍結、体外受精に関連する手技に関しては自費診療としての費用がかかることを説明しています。

Bについては、問題を一通り抽出した後に対応を考えていきますが、過去の同様な事例での工夫は役立つことが多く、またこうした作業を通して夫婦は具体的な解決に向けての行動計画ができると同時に、窓口として機能している我々スタッフが、細心の注意と豊富な経験に基づいて対応していることに気づきます。

これは今後、信頼の醸成に大きく寄与しているものと思われます。
また、これらを話し合う中で夫婦は、不安や問題を明らかにしていきますが、多く見られるのは次のような不安です。

  1. 本当に感染しないか→安全性への不安
  2. 卵子の若さは十分か→年齢への不安と時期が遅れた後悔(少しでも若い時に行かなかった)
  3. ホルモン注射を世間(両親、職場)に知られずにやれるか→プライバシー漏えいの不安
  4. ホルモン注射の副作用への不安→薬剤への不安
  5. 自分の職業生活の途絶への不安→将来の生活への不安、社会的孤立への恐怖
  6. SEXがほとんどない中で妊娠・出産の違和感→夫とその疾患の心理的な受容感+身体感情
  7. 繰り返した場合の費用負担→経済的不安
  8. 夫の精子数と運動性→身体面への不安
  9. 肝臓治療との優先順位→身体面への不安

これらについて、医師が説明を行うべき項目もありますが、カウンセラーとしては気持ちを吐露してもらうことに主眼を置き、医療面の具体的な説明を医師に担当してもらっています。

実施施設の説明と両施設の相違点

実施施設の説明と両施設の相違点はこれらの問題を話し合っている中で、質問をもっも多く受ける点です。2009年7月時点では以下のような内容となっています。

  1. 二施設に技術的な優劣、安全性に関しての相違はない
  2. 二施設の実績、出生数にも相違がない
  3. 慶應義塾大学病院は新潟大学医歯学総合病院の3~4倍程度の費用がかかる
  4. 慶應義塾大学病院は原則、毎月新患二例の受入れが、新潟大学医歯学総合病院の場合は毎月一組の受入れとなっている
  5. その分、新潟大学医歯学総合病院は初診の場合、概ね慶應義塾大学病院の二倍の初診待機時間となる
  6. 外国人に関しては原則、新潟大学医歯学総合病院は受入れない
  7. 新潟大学医歯学総合病院では特に地域に事情を分かっている産婦人科の病院を事前に準備することが必須事項として要請される。慶應義塾大学病院も可能なら協力医療機関を準備することを希望している。
  8. 慶應義塾大学病院ではそうした医療機関があれば最大一週間、新潟大学医歯学総合病院では3~5日程度、ホルモン注射を地域の協力機関で行い、通院期間を短縮することができる。
  9. 新潟大学医歯学総合病院にはカウンセラーを常駐させているが、慶應義塾大学病院においてカウンセラーの配置はない
  10. 期日の関係で二か所を同時に待機することは可能である。ただし、retryにしても当該施設を初めて訪れるときは初診扱いとなる

Cにおいては医師と作業を分担して行います。医師には夫の診察と問診―特に妻の前で話しにくいこと、訊いておくべきことの確認―を担当してもらい、カウンセラーはこの時間と夫が検査に向けて精液採取を行っている時間を利用して、妻の意思確認を行っています。

ここでは挙児希望として以下のことが多く語られます。

  • 女性として(生まれたからには)子供を生んでみたい
  • (妻として)好きな人の子供が欲しい→精子バンクを拒否する理由にもなる
  • 将来の夫の健康不安に対して、夫に万一のことがあっても、気持ちの支えになる、一人残されるのは寂しい(味方がほしい)
  • 今の自分が相手のためにしてあげられることだから(夫が元気になるかもしれない)
  • (既にいる子供を)ひとりっ子にしたくない
  • 子どもが好きだから

これに加えて、「夫も望んでいるから」という理由を述べる妻がほとんどです。

ちなみに夫の挙児理由としては以下のものが多く語られます。

  1. 子どもが好きだから
  2. 生きる張り合いが出るから
  3. 妻に残してあげるものだから
  4. (苦労をかけている)妻が望むから

この他に「夫婦仲がうまく行くようになるから」といった理由を挙げた方がおられましたが、この場合は妻の消極的な姿勢を軌道修正することが夫にはできず、現在も保留のままになっています。

言うまでもありませんが、カウンセリングにおいては中立性と本人らの自発性を尊重し、参加の可否にかかわらず、自己決定を支援しております。

なお、具体的に中断例について述べれば、

  1. DV問題が顕在化した例
  2. 夫の無精子症が判明した例
  3. 妻の不妊傾向が著しい例
  4. 夫婦共に無職で生活も不安定な例
  5. 既に妻が感染していた例
  6. 夫婦の離婚

などがあります。

4.フォローアップ

医師の説明が終わり、希望者の精液検査の結果告知後、再度、短時間であっても面接を実施しています。

今後、決断するに当たって不足している情報はないか、医師の説明への理解度はどうかをみるためです。

窓口である荻窪病院おいては同意書を取りませんが、以後の連絡に備えて、夫か妻、あるいは両方のe-mailアドレスを教えてもらっています。

メールでのその後のやりとりは主に次の「5の実施施設への調整」と準備・連絡に用いますが、他には以下のような目的で連絡を取り合っています。

  1. 費用や手技、事前の検査についての補足質問とその回答
  2. 参加への決断やリタイアの連絡、実施施設の希望などの連絡
  3. 個別の心理的な相談
  4. 他の経験者や患者仲間との仲介依頼

5.実施施設との調整

実施施設からなるべく早く、本研究班用の診察可能日を入手するようにしていますが、新潟大学医歯学総合病院では1~2か月、慶應義塾大学病院では3~4か月前に予約可能日の連絡が多くあります。

これでも海外からの参加者においては航空券手配などでぎりぎりになることが多く、調整は難航します。

次に待ちリストに従って参加希望者にメールで連絡をし、休暇取得、勤務変更、業務調整などを行って、可否の連絡を待ちます。

駄目であれば次の候補者へのアクセスを開始し、OKであれば、各実施施設への案内を送付します。

ただ、待ちの間に案内を希望される方も多く、その時点で送付することも少なくありません。

6.リトライ支援

基本的にリトライに関して慶應義塾大学病院は産婦人科で進行を管理しており、新たに次子を望む場合、海外在住などの特殊事情がある場合を除いて、当院では診察の調整を行っていません。

新潟大学医歯学総合病院に関してリトライは当院を通して行うシステムを採用しており、不首尾に終わった場合は当院に連絡をもらって、リトライの意思などを確認して待ちリストに戻すようにしています。

手続きは先に記述したものと同じとなります。

しかし通常の不妊治療と同じく、何度もリトライを繰り返すことは夫婦、特に妻に心身共に過大な負担をかける手技であり、かといって断念は多くの場合、子どものいる家庭をあきらめることと同義であり、より大きな決断となります。

ここにおいて断念や続行を自己決定する支援を行うことも大切な役割と考えています。

また待機期間や妊娠中、出産後においても心配をかけまいとする夫が、妻に体調の詳細を伝えない場合があります。

医療者も本人が希望しないのに、配偶者を診察室に招き入れることはしません。

そこで知らず知らずのうちに疾病に関して妻が孤立状態に置かれてしまう例も少なくありません。

リトライ支援・フォローアップの中には、秘密保持を約束しつつ、配偶者との面接を進めることもしばしばあります。

7.出産後の支援

出産後にも半年以内の母子の最終検査があり、安全を確認しています。

子育てに追われて時間が経過することがないように注意を促していますが、地域の協力病院がないときには、当院か、慶應義塾大学病院か、新潟大学医歯学総合病院まで足を運ぶことになります。

実際の育児については男性カウンセラーよりも育児経験のある看護師の支援が重要です。

さて、出産に対しては様々な報告が寄せられますが、代表的な感想・報告としては以下のようなものがあります。

  1. 世界が変わった
  2. 結婚時にあきらめていたからとても嬉しい
  3. 夫が元気になったこんなに子ども好きとは知らなかった
  4. 会話の中でどこか病気を意識して話していたが、今は忘れて夫婦で話ができる
  5. 夫がきちんと薬を飲むようになった
  6. 二人目が欲しい

8.おわりに

窓口としての荻窪病院でのカウンセラーの活動について、個人情報に触れない限りで、詳細に述べましたが、ひとつ忘れてはならないのは、IVF相談に来る夫婦は原則、関係良好な夫婦で、感染者の妻一般ではないということです。

確かに慢性疾患として認知されるようにはなってきたものの、HIV感染症はまだ差別や偏見も多く、夫婦関係に亀裂を生じさせる原因となり得るものです。

実際、相談に訪れた関係のよい夫婦であっても感染原因について「怖くて訊けない」「夫の説明を鵜呑みにしている」と答えた妻も少なくありません。

また家庭の問題は子どもが全てを解決するわけではありませんし、子どもが生まれて終わりではありません。

今後も夫婦として支えあっていく生活を側面から支援していくことも重要と感じています。

中でも触れましたが、特に医療として妻をいかに支援していくのかは今後の課題として残されております。

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